家づくり

光を活かす設計と自由な素材使いで 遊び心と暮らしやすさを両立

     

建築家の吉田祐介さんの自邸兼事務所は、モデルルームの役割も担っており、設計はもちろん素材使いのヒントが満載。光や風をうまく取り込みながら、吉田さん独自のセンスで個性豊かな素材をまとめ、快適性とデザイン性を見事に両立させた空間の魅力を紹介しよう。

小さな家がくっついた愛らしい姿
邸内は「広く感じる」工夫がいっぱい

2つの小さな「おうち」がくっついているかのような、愛らしい外観。外壁に焼きスギを使った1階の「おうち」は和室の一部。赤みのあるカラマツを使った2階の「おうち」は吉田さんがデスクワークを行う仕事スペースになっている

玄関ドアは周囲の吹き付け仕上げの外壁と同じ素材。手触りを考慮し、ドアノブ付近だけステンレスを貼っている。外観全体のデザインを損ねない、さりげない存在感

土間の天井(写真右上部)は表情豊かな木毛セメント板。土間を上がってすぐの床は、なぐり加工のオーク材

1階LDK。リビングからキッチン・ダイニングを見る。木を多用した空間だが重さはなく、ルイスポールセンのペンダントライトやマルニ木工の椅子といった名作家具と好相性。天井の一部はボードを張らない現し(あらわし)仕上げで高さと表情を出し、広がりのある印象に

 

建築家の吉田祐介さんの自邸は、ダントツに目を引く。絵本から抜け出たような、まさに「おうち」といいたくなる三角の切妻屋根。しかも1階と2階の一部には、同じく三角屋根の「おうち」がちょこんとくっついている。「家に、2つの小さな家がくっついている」。見たこともないその姿は思わず笑みがこぼれるほど愛らしく、中はどうなっているのか知りたくなる。

独立して約7年。「ユウ建築設計室」のオフィスを兼ねた自邸建築にあたって吉田さんが掲げたテーマの1つは、「コンパクトでも広く感じられる住まいをつくる」だった。

現在、奥さまと2人で暮らすこの家は、1階が広い玄関土間とLDK、和室。そしてバスルームなどの水まわり。来客を意識した1階とは対照的に、2階は吉田さんが設計業務を行う仕事スペースと寝室、第2のリビングやウォークスルークローゼットというプライベートな空間になっている。

全体で共通するのは、ほぼ全ての間仕切りが引き戸であること。さらに1階のリビングは吹抜けなので、引き戸を開け放すと家の中が一体感のある大空間になり、各所の窓から入る明るい光が行きわたる。吉田さんによると、これは「広く感じられる住まい」のポイントの1つなのだそう。

「広く感じられる住まい」のもう1つのポイントは、1カ所に複数の機能を集約し、スペースを有効活用していることだ。例えば、広い玄関土間はDIYを楽しむための場所だが、窓際にベンチを設けて接客スペースとしても使えるようにする。洗面室とトイレは隣接させ、トイレの手洗いは不要にする。和室や寝室は床下収納を備える……などなど、1つの場所・モノが複数の役割を果たし、省スペースを無理なく実現している。

2階は、外観で目を奪われる「家にくっついた小さな家」のモチーフを大胆に取り入れた、とても楽しい空間だ。フロアの中に配された仕事スペース、寝室、ウォークスルークローゼットは、全て「おうち」の形。山形天井の大きな空間に、三角屋根の小さな家が3つあるかのようなデザインなのだ。

遊び心満載と思いきや、そこには別の意図もあった。「これも、空間を広く感じる工夫の1つです。各スペースの天井部を斜めにカットして山形にすると、カットされた部分に空間のアキができて視線が抜け、広く感じられる。窓から入る自然光が遮断されないというメリットもあります」と吉田さん。遊び心の裏に実用的な目的をさりげなく潜ませるテクニックは、見事としかいいようがない。

理屈で語れない独自のセンスで
素材の個性が調和する空間に

明るい光が入る1階の玄関土間。広々した造りで、趣味のDIYを楽しむのにぴったり。奥の窓際にはベンチをつくってあり、テーブルを置けば接客スペースとしても使える。写真左を入ったLDKとは、引き戸を閉めて仕切ることもできる

1階のダイニング。階段上部の窓からは、明るい光が差し込む。テーブル横のセメントボードの壁は、グレーでまとめた階段手すりのアイアンやキッチンと統一感がありつつも、独特の素材感で趣を添える。写真右の白い引き戸の取っ手は、高級感あふれるウォルナット

1階リビングスペースは開放的な吹抜け。写真右には掃き出し窓がある。吹抜け上部の窓からも光が降りそそぐ

2階廊下から寝室側を見る。廊下は吹抜けに面し、大きな窓からたっぷり入る光が2階全体に行きわたる。写真左奥は寝室。ここも、三角屋根の「おうち」をモチーフにしたデザイン。椅子が置かれた空間は、将来仕切ることもできる第2のリビング

 

この家は、「さまざまな素材を使いつつ、まとまりのある空間にする」こともテーマの1つだったという。ここは自邸兼事務所だけでなくモデルルーム的な役割も兼ねており、設計の相談に来たお客さまに素材の使用例を見てもらうためだ。

素材使いを実際に見る楽しみは、外観から始まる。外壁のメインは自然な風合いの掻き落としと独特の質感を出せる吹き付け仕上げ。さらに「家にくっついた、2つの小さな家」は板張りとし、1つは和の趣がある焼きスギを、1つはモダンな印象のカラマツを外壁に使っている。

こうした「素材の展覧会」は邸内にも続く。広い玄関土間の天井はニュアンスのある木毛(もくもう)セメント板。玄関を上がってすぐの床はスプーンで繰り抜いたような模様が楽しい、なぐり加工のオーク材。ほか、床は1階のLDKがカラマツ、2階のリビングや寝室はカバザクラ。2階への階段の踏み板は木目を縦横交互に3層に重ねてあり、切り口に表情が生まれるスギパネル。

特筆すべきは、これだけ多彩な素材を使いながらも、ちぐはぐな印象が皆無なことだ。壁や引き戸を含めた色合いのバランスが抜群によく、階段の手すりにアイアンを使うといった変化球も織り交ぜ、素材同士を巧みに呼応させているからだろう。

クールというよりは温かく、甘すぎないかわいさも感じられる空間は、ルイスポールセンのペンダントライト、マルニ木工の椅子といったこだわりの家具がよく映える。階段や吹抜けの大開口をはじめ、配置を熟考して設けられた窓からは気持ちのよい光や風が入ってきて、緑や夜景といった外の景色も空間を彩る。

全体のまとまりを出すコツはあるのか、吉田さんに聞いてみた。「どうなんですかね……。色はある程度統一させて、重くならないよう明るさも考えて……」と、(失礼ながら)若干あいまいな回答からわかったのは、ぬくもりや落ち着きと洒落た雰囲気を併せもつ素材使い・色使いは、我々が真似できない吉田さん独自のセンスから生まれるということだ。

これまで女性からの設計依頼が多かったと聞き、心の底から納得した。吉田さんは、家としての性能を担保する設計ノウハウやスキルだけでなく、アーティスト的なデザインセンスに秀でた建築家といえる。実用性を重視しつつ洒落たもの・かわいいものに目がない女性たちに選ばれるのは、当然のことだろう。

間取り図

1F間取り図

2F間取り図

お家のデータ

施主:Y邸
所在地:千葉県船橋市
家族構成:夫婦
敷地面積:166.01㎡
延床面積:92.04㎡
予 算:2000万円台

 

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