眺望を活かしたオリジナリティのある住まいを望んでいた施主さまに、イノウエヨシムラスタジオが提案したのは「空間を斜めに区切った家」。奇抜なのでは? という懸念を吹き飛ばす快適で豊かな住空間の魅力や、全てにおいて「斜めが正解」と確信できる完成までのストーリーを紹介する。
「四角い空間を対角線で区切る」
新発想のレイアウトが最適な理由

高台に立つK邸の、東側の外観。2階の幅広の窓があるところがダイニング。のびやかな眺めを満喫できる

2階キッチンからダイニング、リビングを見る。2階は四角い空間を斜めに区切って床の高さを変え、ダイニング、リビングを使い分けられるようになっている。ダイニングは眺めのよい東側が長辺となる三角形で眺望は抜群。窓際の造作棚はベンチとしても大活躍
土地探しで協力を得た不動産会社の紹介で設計を担当することになったのは、イノウエヨシムラシタジオ(IYs.inc)の井上亮さんと吉村明さん。洗練されたユニークなデザインと暮らしやすさを両立した家づくりに定評のある2人だ。
Kさまの主な要望は、(1)高台からの眺望を活かす (2)開放的な空間だけでなく、こもった感じの床座のリビングもつくる (3)シンプルでありながらオリジナリティも感じられる住まい の3つだった。
井上さんと吉村さんは土地を見て、法規斜線などの制約の中で住空間を最大限に広く取る建物の外形を決定。その内部をどう設計して要望に応えるか、検討を重ねた。
土地は南北に伸びた長い台形だ。眺望が開けた東の長辺に窓を取ってダイニングをつくり、窓から奥まった西にリビングを配すると、どちらも細長い空間になって使いづらい。かといって、眺望に対してダイニングとリビングを横並びにすると、リビングに「こもった感じ」を出せないし、どちらも無個性な空間になりかねない。
井上さんと吉村さんが思考をめぐらした末に思いついたのは、「四角い空間を、対角線で斜めに区切る」プラン。四角形を対角線で区切ると、長辺も短辺もそのまま活かした三角形が2つできる。
眺めの良い東の長辺を活かした三角形を「開放的な」ダイニングにし、西側の三角形は床を少し高く上げ、天井が低めの「こもった感じ」のリビングにする。そうすればダイニングで東の眺望を最大限に楽しめるし、ほっと落ち着く床座のリビングも実現できる。
さらに、区切るといっても壁や建具は設けず、大空間の心地よさや一体感もキープする──というアイデアだった。
最高の眺望と豊かな住み心地
「斜め=奇抜ではない」と知る空間

ダイニングの窓際からリビングを見る。ダイニングとリビングの間に仕切り壁や建具はなく、天井はひと続き。斜めに区切ったおかげでどちらも幅広のスペースがあり、落ち着いて過ごせる。リビングの床下のアキから見えるのは1階の玄関ホール。黒い階段の上にはロフトもある

2階への階段をのぼりきったところからLDKを見る。ダイニングへの入口は三角形の鋭角に当たるため、奥のキッチンに向かって空間が広がる形になり、実際の床面積以上に広く感じる効果がある

ロフトで下を見る。ダイニングが三角形なのがよくわかるが、実際にダイニングにいると「斜め」という感じがしないから不思議だ。リビングの床下には1階の玄関ホールが見えるアキがあり、ロフトからは2階のLDKと玄関ホールまで、家の中全体を見渡せる
だがKさまは建築家が建てた家を訪ねるテレビ番組が大好きというだけあって、「自分たちからは絶対に出てこない発想だったから、面白い家になると思って」と、斜めのプランを選択。奥さまも「東の眺望を最大限に取れるので理にかなっていますし、建築家がつくる注文住宅ならではのオリジナリティも気に入りました」と話す。
かくして斜めのプランで完成したK邸。2階のダイニングへ上がると、東の窓一面におおらかな眺めが広がり、とても気持ちのいい住まいになっていた。
同じ空間の西側は、ダイニングよりも床が数段高い床座のリビングだ。天井はダイニングとひと続きなので床が高い分だけ天井が低くなり、床座に適した「こもった感じ」があって落ち着ける。どちらも三角形なのに広々としているせいか、「斜め」を感じさせないから不思議だ。
リビングの上には家の中全体を見渡せるロフトもある。3層に分かれた2階はダイニング、リビング、ロフト、ベンチにもなる窓際の造作棚、階段など、景色や光、開放感やこもり感が異なる「居場所」が多く、楽しい。
井上さんと吉村さんはいう。「斜めの空間は奇抜で使いづらそうなイメージをもつ方もいると思います。でも、光の入り方や景色の見え方、高低差や動線などのバランスをうまく取れば、限られた敷地の中で、四角形では得られないような広がりのある豊かな家がつくれるんです」
確かに、実際に訪れると「斜め」の違和感はゼロ。むしろ、四角で区切るよりどの空間ものびやかで、広く感じられる。「正直、斜めのプランを選ぶのには勇気も要りました。でも住んでみると本当に居心地がいい。斜めということを忘れるくらい自然に暮らしています」というKさま夫妻の言葉が、イノウエヨシムラスタジオの狙いが見事に当たった何よりの証拠だ。
施工会社とのタッグでコストも配慮
シンプルなのに個性のある住まい

1階の大きな玄関ホール。白いカーテンを開けると壁一面の造作棚。大容量で家中の収納を担える。ここは2階リビングの真下になり、2階同様三角形。床はコンクリート敷きでアパレルショップのような洒落た雰囲気。写真左の壁向こうは、奥から洗面&浴室、寝室、トイレが並ぶ

1階玄関ホールの階段まわり。左の扉がトイレで、右の扉が寝室。さらに右に行くと洗面&浴室がある。上部のアキから2階ダイニングが少し見えて視線が抜け、一体感と開放感が生まれている

家族が休息する1階の寝室。手前のロフト状になったところにベッドを置ける。この下はたっぷりの収納。お子さまが成長したら奥のスペースに2段ベッドを置き、仕切り壁を設けて主寝室と子ども用の寝室を分けることもできる
ダイニングの下に当たる残り半分の三角形は、奥から洗面&浴室、寝室、トイレが並ぶ。「帰ってきたら玄関ホールの収納に上着をかけ、洗面室で手を洗ってトイレに行ってから2階に上がる。動線がよく考えられていて、使い勝手がいいですね」とKさま。
抜群の住み心地を誇るK邸だが、斜めに区切る設計は、素材の木を斜めにカットするなどの手間が発生しコストが高めになることが懸念点。しかし、井上さんと吉村さんはコストを抑える配慮も忘れない。
例えば壁は塗り壁にせず高級感のあるクロスを使い、水まわり以外の木は無塗装に。ほか、廊下をなくして建具を減らす、造作収納の扉をなくすといった工夫も凝らしてコストダウン。
コストの圧縮では、井上さんと吉村さんが培ってきた施工会社とのリレーションも効いている。「造作家具を家具工事でつくると高額になりますが、僕らがお願いする施工会社は技術力が高いので、家具も大工工事でつくり低コストにつなげています」。クリエイティビティに富んだ住まいを可能な限りの低コストでつくれるとは嬉しい限りだ。
「シンプルなのに個性があって愛着が湧きますね」と、楽しげに団らんするKさま一家の様子を見ていると、眺望から住み心地まで、全てにおいて斜めのプランがベストな選択だったと確信する。固定観念にとらわれず、住む人が心地よいと感じるものを自由につくり上げるイノウエヨシムラシタジオのスタイルは、注文住宅を望む多くの人を幸せにするのだろう。
間取り図

1F平面図

2F平面図

ロフト平面図

横断図
お家のデータ
- 施主:K邸
- 所在地:神奈川県横浜市
- 家族構成:夫婦+子供2人
- 敷地面積:115.83㎡
- 延床面積:112.67㎡
- 予 算:2000万円台
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