20年来住んでいたマンションの周囲の環境変化により、新築の戸建てを検討していたGさんご家族。訪れたオープンハウスで見た温かみのある家を気に入り、建築家の金子正明さんに家づくりを依頼する。たたずまいと木材の風合いを大切に生かした大屋根の家は、シンプルながら物語に出てくるような愛らしさを醸し出す。
明確な要望がなくても、会話から理想の家のイメージを読みとる
新築ということで、Gさんご家族のご希望が多かったのでは? と思いきや、最初はほとんど要望らしい要望はなかったそうだ。しいて言えば、オープンハウスで金子さんのつくる家を見ているため、「あんな感じの家を」という抽象的なものが当初の要望といえる。
「最初から具体的な要望がない方は珍しくありません。なので、始めは僕がプランを描いて、そこから要望を加えて変更していくという形をとっています。ぼんやりとしたプランが回を追うごとに集約され、施主さんのイメージも固まって行くので、この過程は欠かせません」
Gさんご家族も打ち合わせを重ねることで、家への要望も明確に。望む暮らしが徐々に形作られていったのだろう。特にお子様2人が使用する2階は、当初のプランより大きく変更されている。
さらに、金子さんは言う。「僕は最初に世間話から入るのですが、ご家族がいつも居間に集まって、お互い話すでもなく、なんとなく過ごしているとおっしゃっていました。その話を聞いて凄く仲のよいご家族なのだなと思いました。だからリビングが中心になるデザインにしたのです」
お互いのプライベートを尊重しつつ、適度な距離感を持てる緩やかなつながりがあるから、ご家族で「なんとなく」過ごせるのだろう。金子さんはそこを読み取り、お子様の部屋がある2階へ上がるには、リビングを通り抜けていく造りにした。
回を重ねるうちに出てきた奥様の希望は「収納」。大きめの収納部屋、和室の戸袋や日用品などちょっとしたものが入る階段下収納のほか、玄関ポーチの収納スペースなど、多めに設けた。
中でもこだわりはパントリーだ。玄関から直接入れるパントリーは、そのままキッチンに直結している。重い買い物袋を提げてリビングを回り込まずに済むよう、玄関・パントリー・キッチンをつなげて、スムーズな動線づくりをした。
さらに本が好きというご家族のために、2階上がってすぐのファミリースペースには、木の本棚を設置し、読書コーナーをしつらえた。大きく取られた北側の窓は開放感があり心地よく、読書もはかどりそうだ。
大きな要望がなくとも、会話の端々から個人個人の想いを読み取る。そんな金子さんの心構えが今回の家をつくり上げたのだろう。
手仕事が光る。素材感と風合いを大切にしたデザイン
素材感と風合いを大事にする…金子さんの信条のひとつである。例えば、外壁の杉板。製材したままカンナをかけずに、ノコギリの跡を生かしている。塗料も無色の保護剤を使い、素材そのものの持ち味を引き出しているのだ。
「僕は、新築の状態が一番きれいという建物はつくりたくないんです。新築時も良いが、経年とともに味わいを深めてくれる家づくりを目指しています」
なるほど、外壁に使われている杉材は木目も新しく、新築時はすがすがしいたたずまいだ。だが5年10年と時を追うごとに、また違った表情を見せ見せてくれると思うと、家族の楽しみのひとつとなるだろう。
屋内は、手間を加えて加工した、ラワン合板の天井とクルミのフローリングで、こちらも木の風合いが引き立っている。その天井と床を、白い砂漆喰の壁がつなぎ、温かみがありながらも落ち着いた大人のデザインに仕上がっている。
「私にとっての素材感というのは、単なる素材の質感という意味ではありません。その材質の幅や加工の仕方、スケ感、貼ったときの隙間まで計算して、得られるものなのです」。そんな金子さんのこだわりは、オリジナルのキッチンやスイッチなど、細部にまで至っている。細かい箇所でも、金属がむき出しになる部分は、極力、木で隠すという徹底ぶりである。図面から製作した、完全オリジナルのキッチンは、取っ手部分をウォルナット材でつくってある。素材感はもちろん、色味のアクセントとしても素晴らしい逸品だ。
木の風合い豊かな家を引き締める「大屋根」は金属屋根だ。暗い色味の大きな屋根は、「ワビサビ」と表現したくなるような落ち着きを感じさせてくれる。「金属屋根なので音が響きます。雨音などが気になるため、屋根の下にインシュレーションボード(防音板)を入れて雨音対策をしています」同時に、屋根の垂木の間に断熱材のロックウールを150mmの厚さで充填しているので、結果として二重に音対策ができているのだとか。
最後に、金子さんは言う。
「もちろん施主さんの要望は取り入れたうえで、始めは一人称で考えます。自分が主人公になって、その土地で暮らしたいような家を。自分で居心地が良いと納得できないと、施主さんにも勧められないのでね」
完成した際にはニコニコしながらも「きれいに使いこなせるかしら?」とおっしゃっていた奥様だが、前のお住まいから持ち込んだ質の良い家具も、今の家になじんでいるそうだ。まず始めに金子さんが主人公となって考えた家は、今ではGさんご家族の大切な物語の一部として存在している。
金子正明さんコメント
僕は、外の景色を見ながら、季節を感じて暮らしたいと考えています。本来なら、カーテンを閉めずに過ごせるプランが理想です。とはいえ、なかなか実現は難しい。今回はGさんの希望もあり、河川敷に植えられた1本の木を借景にした窓をつくりました。河川敷に面しているのでカーテンを閉める必要もなく、季節ごとの表情を楽しめると思います。
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